インド神話

は?とお思いのことと存じます。

これまで仄暗い部屋の隅でブルーライトに炯々と目だけをギラつかせながら怨念渦巻く記事を綴り上げてきたというのに、この期に及んでこの無駄にスケールのデカいタイトル設定は一体全体どういう風の吹き回しだと。

単刀直入に申し上げて暇潰しです。私事ですが睡眠サイクルが著しく乱れているので今夜は寝ずに一晩を明かそうと試みています。眠気を十二分に蓄え今日の晩は音速で床に就こうという寸法です。

秋の夜長とはよく言われますが、日の長い初夏の夜とて寝ずに過ごすにはいささか長過ぎるのです。そこでインド神話というわけです。インド神話と夜の長さには毛ほどの関係もありませんが、ちょうど昨晩、いつものようになすべきことを全て放って書を開きインドの神々に思いを馳せていたところであったので、ここはひとつそのあらましを記事にでも書き起こして退屈を凌ごうと思い立ったわけです。ジメジメとした非生産性の結晶とも言うべきこのブログの閑話休題にカレー香るインドの風を吹き込んでみたいと思いますので、同じように暇を持て余している方、暇ではないけど暇な方、ちょっと面白そうかもなと思ってくださった方、並びにインド人の皆様、よければひとつお付き合いください。

 

さて長すぎる前置きもこれくらいにして本題に入ろうと思います。今日ご紹介いたしますのは、古代インドの大叙事詩ラーマーヤナ』です。ハイスペックなラーマ君が美女シーターを手に入れ、勢いそのままに王位に就こうとしますが…?王の苦悩に渦巻く嫉妬。揺れる恋心。神と悪魔と人間が織り成すスペクタクル。次代の王は一体誰なのか。世界に平穏は戻るのか。友情、努力、勝利のジャンプ的展開にもご注目ください。それでははじまりはじまり。

 

舞台はかつてガンジス河中流に位置したとされるコーサラ国。この国の王ダシャラタには3人の王妃がいたそうです。幸せそうで羨ましいなぁ。数千年後の怠惰な若者から向けられる羨望の眼差しをよそに、王は苦悩を抱えていました。妻を3人も娶っておきながら、後継者に恵まれなかったのです。控えめに言ってもこれはまずいということで、王はせっせと祭儀を催しました。子が生まれますようにと神様にお願いしたわけです。するとたちまち3人の王妃から4人の王子が生まれたそうな。凄まじい霊験ですね。

カウサリヤーという王妃からはラーマが、

カイケーイーからはバラタが、

スミトラーからはラクシュマナとシャトルグナという双子が

それぞれ生まれてきたそうです。どうでもいいですが馬鹿みたいに名前がややこしくないですか?インド神話、こんなのばっかです。もう王の名前忘れましたね。ダシャラタですね、ダシャラタダシャラタ。

4人の子の中でもとりわけラーマは文武両道のイケイケだったそうです。王家に生まれ、勉強もでき、武術も堪能。さぞかし陽キャに育ったことと拝察します。その上このラーマの誕生にはやんごとない背景が存在します。

所変わってこちらは天上界。神々が楽しく暮らしていたところに、それをよしとしない悪魔の王ラーヴァナが乱暴をしにやってきます。ちなみに悪魔の一団はラークシャサというらしいです。混乱が加速するのでもうやめてほしいです。

悪魔王ラーヴァナの悪事に思い悩んだ神々は、神の一柱、ヴィシュヌにお願いをします。

「悪いけど人間界に生まれ直してラーヴァナ倒してもらってもいい?」

いや神として戦った方が明らかに強いだろとつっこみたくなりますが古代インドでは少し事情が違うようなので飲み込みます。

かくして、ヴィシュヌは人間界に降り立ちます。人間として。察しのいい方はもうお気づきかもしれませんが、何を隠そう、ラーマこそがこのヴィシュヌの人間としての姿だったのです。陽キャどころの騒ぎではなかったわけです。神ですので。

その後すくすくと育ったラーマは、ある日、ヴィデーハ国という国の王の娘シーターを嫁にせんとして婿選びの競技会に参加します。外国まで行って妻を娶らんとするラーマもラーマですが、婿を選ぶために謎の競技会を開催するシーターもシーターだなと思います。どうせこいつも陽なのだろうなと思いましたが、案の定絶世の美女とのことで溜息が出ました。因みに競技会の名前はスヴァヤンヴァラというそうです。もういいです。

ラーマは持ち前のスペックの高さで競技会を勝ち抜き、シーターをものにします。ラーマの勢いは留まるところを知らず、遂に王の後継者となります。しかしこれに眉を潜めたのがカイケーイーです。誰ですか?王ダシャラタの3人の王妃のうちの1人です。カイケーイーはダシャラタを言いくるめて無理矢理息子バラタを王位に就かせます。肝っ玉母ちゃんの一世一代の大勝負は成功だったようです。そればかりか、14年間に渡ってラーマを国から追放するという強情さを発揮します。これを悲しんだのが新王バラタでした。バラタはラーマ不在の間、玉座には就かず彼の帰国を待ったそうです。母に似ずいいやつですよね。ちなみに王ダシャラタはこの一件を悲しみすぎて亡くなったそうです。あまりにも唐突すぎる死。仮にも一国の主がたった一行で死なないでくださいよと言いたくもなりますがこの世は無情です。

さてさて、国を追われたラーマは妻のシーターと、兄を慕ってついてきたラクシュマナとともに森に入り、悪鬼の退治に勤しみました。これに対し悪魔王ラーヴァナはブチ切れます。そしてそれと同じくらい激しくシーターに恋をします。悪鬼の王とは思えぬ情緒の忙しさですが誰かを愛する心に人間と悪魔の別は無いということでしょうか。惚れた女を手に入れるべく、ラーヴァナは恋路に邁進します。手っ取り早くラーマとラクシュマナを罠にかけ、その隙にシーターを誘拐したのです。その後、彼はランカー島という現在のスリランカ(インドの南側にある島国)に当たる場所にある自らの王宮にシーターを閉じ込めてしまいます。

一方、シーターを奪われたラーマも黙っていません。彼はシーターを探す旅に出ますが、その途上で猿と仲良くなります。猿と言ってもただの猿ではありません。猿の王スグリーヴァ、それから猿の勇士ハヌマーンです。ラーマの事情を知ったハヌマーンはよしきたとばかりにランカー島に偵察に向かい、そこでシーターが囚われているのを発見します。そうとわかれば話は早いということで、すぐに猿の軍団が結成され、ランカー島への架橋が行われました。手際の良さに感嘆するばかりです。この話の中で一番頭がいいのはもしかしたら猿かもしれません。

橋が完成するが早いか、一行は一挙にランカー島に攻め込みます。しかし相手は悪鬼の一団とその王たるラーヴァナ。ことはそう容易には運びません。激しい戦闘の中でラーマ達は重傷を負ってしまいます。そこで猿の勇士ハヌマーンは手近な山へひとっ飛びし、薬草の調達を試みます。ハヌマーン、やたらよく飛びますが羽が生えてるんでしょうか。猿ですよね?

ハヌマーンの試みも虚しく、薬草は既に隠されてしまっておりとても見つけられませんでした。そこではいそうですかと諦めないのが勇士ハヌマーン。彼はそれならばと山頂を丸ごと戦場に持ってきます。山頂を、丸ごと。猿ですよね?

かくして薬草による治療を施されたラーマ達は勢いを取り戻し、ラーヴァナの軍勢を打ち破ってシーターを取り戻したとのことです。

戦いの後、ラーマはシーターとともに凱旋し、晴れて王位に就きます。ここでめでたしめでたしと終わってくれたらよかったのですが、そうは問屋が卸しません。ほどなくして民衆の間にシーターの貞節を疑う者が現れたのです。今も昔も人はゴシップが大好きみたいです。シーターの黒い噂はたちまちのうちに人々の間に広がり、やがてラーマの知るところとなりました。これを聞いたラーマ、是非とも根も葉もない噂を一蹴する気概を見せてほしいところでしたが、あろうことかシーターを捨てます。

その後、ラーマはシーターやその子と再会することがあったそうですが、やがてシーターは地上から姿を消してしまったそうです。

 

うーん。なんとも後味のすっきりしない終わり方ですが、以上が『ラーマーヤナ』のあらすじです。後継者をめぐるダシャラタの苦悩と天上界の懊悩、更には継母カイケーイーの嫉妬に悪魔王の淡い恋心、猿の友情、民衆の猜疑心。登場人物の思惑が複雑に交錯するなんとも人間らしい物語だなぁと思います。神話という言葉にはあたかも神々の神聖な物語であるかのような響きが漂っていますが、その内実は人間臭いものであったりすることが往々にしてありますね。その意味では『ラーマーヤナ』も神話らしいと言えるのかもしれません。真面目に読んだらちょっと笑ってしまうような内容でも、インド宗教のある宗派ではこれが神聖視されていたりして、そこにまたおもしろさを感じませんか?

ちなみに、大活躍だった猿の勇士ハヌマーンについて少し付け加えると、悪鬼の軍勢と戦う際に、薬草のためだけに運んできたドデカい山頂部はその後ハヌマーン直々にもとあった場所に返したそうです。めちゃめちゃ律儀でかわいいですよね。味方を癒すために山を運んできて、用が済んだらちゃんと後片付けも忘れないハヌマーン、好きです。

今回の記事は以上です。お付き合いいただきありがとうございました。またいつか似たようなことをやるかもしれませんし、やらないかもしれません。